東京地方裁判所 平成8年(ワ)2700号 判決 1998年1月30日
原告
鈴木春美
右訴訟代理人弁護士
佐瀬正俊
同
米川勇
同
小川義龍
被告
藤原千尋
右訴訟代理人弁護士
田澤孝行
主文
一 被告は、原告に対し、金二二九万九五六一円及びこれに対する平成八年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金七五二万三〇七七円及び平成八年一月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原被告及び竹本修(以下「竹本」という。)は、平成三年一一月、以下のとおり、共同出資をして事業を行う旨合意した。
(一) 出資総額は五〇〇万円とし、原告が二〇〇万円、被告が二〇〇万円、竹本が一〇〇万円を各振り込む。
(二) 業務内容はアンティーク宝飾品、雑貨類の輸入、販売事業とする。
(三) 右業務は被告が中心になって行い、原告及び竹本はその支援を行う。
(四) 商号は「ヴィクトリアンボックス」とする。
(五) 住所は原告が経営している株式会社プラン・ド・ユウ(以下「訴外会社」という。)と同じ場所におく。
(六) とりあえず三年間右の内容で活動した後、事業継続等について再検討する。
(七) 三年間は被告に対する月額一〇万円の報酬、並びに、商品仕入時の旅費、費用及びその間の日当五〇〇〇円をヴィクトリアンボックスで負担する。
2 原被告及び竹本は、平成三年一一月、右合意に基づいて被告が開設したヴィクトリアンボックスの口座に各出資金を振り込み、以後ヴィクトリアンボックスは右合意内容のとおり運営された。
3 原被告及び竹本は、ヴィクトリアンボックス設立時の合意のとおり、ヴィクトリアンボックスの運営を開始して三年を経過した平成六年一二月、ヴィクトリアンボックスの今後について話し合い、清算をすることとし、同年一一月三〇日現在のヴィクトリアンボックスの資産負債及び利益の内容が次のとおりであることを確認した。
(一) 資産合計
二三六二万二四一一円
(二) 負債合計
一一六万六六八七円
(三) 出資金 五〇〇万円
(四) 利益一七四五万五七二四円
4 しかるに、被告が出資額に応じた割合による清算に異議を唱えたため、原被告及び竹本は、どのような割合で清算するかさらに協議することとしたが、一旦は合意ができても被告が清算金を支払わないために混迷を来たし、竹本は、嫌気がさして清算金請求権を放棄した。
5 そこで、原被告間で改めて協議し直し、平成七年二月、翌月に被告が税務申告をし、その後速やかに、税金を控除した後の利益を原告と被告とで二分の一ずつ取得し、被告が原告に右の清算金を支払う内容で清算する旨の最終的な合意が成立した。
また、それとともに、原被告は、ヴィクトリアンボックスの事務所が訴外会社にあり、訴外会社がヴィクトリアンボックスの事務手続等を行ってきたことから、訴外会社の事務経費も経費として控除することを合意した。
6 しかし、被告は、原告及び竹本に出資金を返還し、また、訴外会社の事務経費等として二四〇万九五七〇円を支払ったのみで、残余の清算をしない。
7 したがって、被告は、ヴィクトリアンボックスの清算金として、原告に対し、前記の最終合意に基づき、原被告及び竹本との間で確定されたヴィクトリアンボックスの利益一七四五万五七二四円から支払済みの二四〇万九五七〇円を控除した一五〇四万六一五四円の二分の一にあたる七五二万三〇七七円を支払う義務がある。
しからずとも、民法上の組合たる性格を有するヴィクトリアンボックスの残余財産の清算は、民法六八八条により、出資の価額に応じてなされるべきであり、被告は、右の一五〇四万六一五四円について少なくとも原告の出資額に応じた六〇一万八四六二円を原告に支払う義務がある。
8 原告は、平成七年一二月三〇日到達の通知書により、被告に対し、清算金七五二万三〇七七円を平成八年一月一六日までに支払うよう催告した。
9 よって、原告は、被告に対し、前記清算金七五二万三〇七七円(少なくとも六〇一万八四六二円)及び弁済期の翌日である平成八年一月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項のうち、被告に対する月額一〇万円が報酬であることは否認し、その余は認める。
右一〇万円は被告の活動費である。
2 同第2項のうち、原被告及び竹本が平成三年一一月請求原因第1項の合意に基づいて被告が開設したヴィクトリアンボックスの口座に各出資金を振り込んだことは認め、その余は否認する。
3 同第3項のうち、原被告及び竹本が平成六年一二月話し合ったこと、出資金が五〇〇万円であることは認め、その余は否認する。
4 同第4項は否認ないし争う。
ただし、竹本は、平成七年一月末から二月初旬にかけて、被告に対し、初めから本件共同出資の話はなかったことにしてほしいと申し出ているのであり、何ら清算金なるものを被告に要求していない。
ヴィクトリアンボックスにおいては、出資金に対して毎年一〇パーセントの割合による利息の支払がなされており、竹本は、当初出資金一〇〇万円に対する三年間分の利息三〇万円の受領を拒否して返還してきたが、最終的にはこれを受領している。
5 同第5項は否認ないし争う。
6 同第6項のうち、被告が原告及び竹本に出資金を返還し、二四〇万九五七〇円を支払ったことは認め、その余は否認ないし争う。
7 同第7項は否認ないし争う。
8 同第8項は否認ないし争う。
9 同第9項は争う。
三 被告の主張
1 被告は、共同経営として始めたはずのヴィクトリアンボックスについて、被告ばかりが多忙を極め、到底共同経営という内容でなかったことから、平成六年七月、原告に対し、ヴィクトリアンボックスが三名の共同経営であるのか、被告の単独経営に対して原告及び竹本が協力しているだけなのか確認したところ、原告は後者である旨を応えた。
そこで、被告は、ヴィクトリアンボックスは当初から被告の単独経営であり、原告及び竹本の出資金は借入金のようなものと考えることとし、以後、資金繰りや実務を一人でこなしてきた。
2 被告は、平成六年一二月、原告及び竹本とヴィクトリアンボックスの清算について話し合った際、原告に対し、ヴィクトリアンボックスの発足当初から被告が単独で経営していたものとして清算処理する旨を伝え、原告は、被告の申し出に従う旨を述べた。
そこで、被告は、適正な清算額を二四〇万九五七〇円と算出し、原告に支払ったものであり、これをもって清算手続は完了している。
3 また、ヴィクトリアンボックスが被告の単独経営であると原告が述べた平成六年七月以前(平成四年一月から平成六年六月三〇日まで)のヴィクトリアンボックスの収支を算定すると、以下のとおり、マイナスであるから、いずれにせよ、原告に支払うべき清算金はない。
(一) 収入関係
三〇三三万九一七〇円
(1) 売上高 二二九八万〇七一七円
(2) 在庫品 七二五万二七一二円
(3) 現金 一〇万五七四一円
(二) 支出関係
三五八六万二一三三円
(1) 仕入額 一五一四万四七四八円
(2) 一般経費 六四六万九九三四円
(3) 原告経費 三三四万五七三八円
内訳
① コンサルタント料 一二〇万円
② 原告事務所使用料 九四万円
③ 応援販売の立替経費
七万二九〇〇円
④ 交際等の立替経費
七万二三七〇円
⑤ 原告の友人等に対する販売手数料 一五万四三〇〇円
⑥ 原告が受領したジュエリー一〇点 九四万三五六八円
ただし、原告は、被告が仕入れた品物の中から、原告の仕事に使用したいであるとか、娘にプレゼントしたいという理由で、右一〇点のジュエリーが欲しいと申し出、ヴィクトリアンボックスとして交付した。
(4) 被告経費一〇九〇万一七一三円
① 活動費 三〇〇万円
ただし月額一〇万円の活動費三〇か月分
② 交通費 一八万円
ただし、平成四年一月から平成五年八月まで月額五〇〇〇円、同年九月から平成六年六月まで月額八〇〇〇円
③ 電話代 二四万九四一〇円
④ 交際費 三〇万五〇〇〇円
⑤ 被告の友人に対する販売手数料
二八万七六八三円
⑥ 出張日当 四八八万円
ただし、一日当たり二万円の二四四日分
⑦ 残業代 一五四万六八七五円
ただし、一時間当たり三一二五円の四九五時間分
⑧ 手形割引手数料
四六万一五五七円
4 さらに、平成四年一月から平成六年一二月二五日までのヴィクトリアンボックスの収支を算定しても、以下のとおり、若干のプラスがあるが、出資金の返還により余剰はない。
(一) 収入関係
四九七六万四九五二円
(1) 売上高 三九八六万四四三六円
(2) 在庫品 六二〇万〇六〇二円
(3) 現金 二六九万九九一四円
(二) 支出関係
四五二三万〇二三二円
(1) 仕入額 一九二四万六八一八円
(2) 一般経費 七六〇万四四四四円
(3) 原告経費 三三四万五七三八円
(4) 被告経費一五〇三万三二三二円
① 活動費 三六〇万円
ただし月額一〇万円の活動費三六か月分
② 交通費 二二万八〇〇〇円
ただし、平成四年一月から平成五年八月まで月額五〇〇〇円、同年九月から平成六年一二月まで月額八〇〇〇円
③ 電話代 二八万八七一八円
④ 交際費 五八万五〇〇〇円
⑤ 被告の友人に対する販売手数料
三七万九六八三円
⑥ 出張日当 六五〇万円
ただし、一日当たり二万円の三二五日分
⑦ 残業代 二〇九万〇六二五円
ただし、一時間当たり三一二五円の六六九時間分
⑧ 手形割引手数料
四六万一五五七円
⑨ 平成七年一、二月の残務整理事務費 二〇万円
5 なお、被告の経費が、いつ売れるか分からず、売るにも物的人的経費を要する在庫品をもって相殺ないし支払われるとすれば、不公平である。
四 被告の主張に対する認否、反論
1 被告の主張第1項は否認ないし争う。
2 同第2項は否認ないし争う。
3 同第3項は争う。
4 同第4項は争う。
ヴィクトリアンボックスの収支は、原被告及び竹本の合意によって明らかにされており、これに反する収支計算は認められない。
また、被告の経費は、ヴィクトリアンボックスにおいて支払済みである。
なお、原告が受領したジュエリーは、被告主張の数、額のものであるかは知らないが、いずれにしても、被告が個人的なお礼として原告に渡したものである。
5 同第5項は争う。
在庫品は、売れれば仕入価格の何倍にもなるものであり、そのような価値のあるものを仕入価格で算定した原告主張は、被告にとって有利であれこそすれ、不利ではない。
理由
一 請求原因第1項のうち、被告に対する月額一〇万円が報酬であることを除くその余の点、第2項のうち、原被告及び竹本が平成三年一一月請求原因第1項の合意に基づいて被告が開設したヴィクトリアンボックスの口座に各出資金を振り込んだこと、第3項のうち、原被告及び竹本が平成六年一二月話し合ったこと、出資金が五〇〇万円であること、第6項のうち、被告が原告及び竹本に出資金を返還し、二四〇万九五七〇円を支払ったことは、当事者間に争いがない。
二 被告は、ヴィクトリアンボックスが被告の単独経営下にあったかのように主張するが、前記のとおり、原被告及び竹本が出資をなして、共同の事業であるアンティーク宝飾品、雑貨類の輸入、販売業を営むことを約し、もってヴィクトリアンボックスが発足したこと(請求原因第1項)は当事者間に争いがなく、そうである以上、ヴィクトリアンボックスは民法上の組合ないしこれに準ずる人的結合体であり、仮に、後にその法的性質について構成員の一部からこれと異なる見解が表明されたからといって、その一事をもってヴィクトリアンボックスの発足が遡及的に否定され、あるいは右見解表明の時点でヴィクトリアンボックスが解散し、清算段階に移行するものとはおよそ解し得ない。
三 しかるところ、前記争いのない事実、甲三一及び原被告各本人によれば、原被告及び竹本は、平成六年一二月一六日、一同に会してヴィクトリアンボックスの今後について話し合い、ヴィクトリアンボックスとしての活動を終了させて清算する旨を合意し、もって、ヴィクトリアンボックスは、右同日に、構成員全員の合意によって解散したものと認められる。
四 したがって、ヴィクトリアンボックスは、右の解散合意によって清算段階に移行したものというべきであり、また、弁論の全趣旨によれば、ヴィクトリアンボックスの収益及び在庫品は現在被告の手許にあり、残余財産の分配が行われるとすれば、それは主として被告から他の構成員に対する金品の交付という形態をとるべきものと認められるところ、原告は、残余財産の分配方法について、税金控除後の利益を原告と被告とで二分の一ずつ取得する旨の合意が成立したと主張する。
しかるに、甲二、二九及び原告本人によれば、平成七年一月から三月にかけて、原告と被告とがヴィクトリアンボックスの清算について交渉する中で、被告が原告に対して税金控除後の利益を折半したいであるとか、利益の二分の一を被告が取得し、残余を原告及び竹本が取得するというのではどうかであるとか種々提案したことが認められ、また、甲三一及び原被告本人によれば、竹本は、被告から、自己の出資金一〇〇万円の返還と配当金名下の三〇万円の交付を受けて、その余の残余財産分配請求権を放棄したものと認められるものの、これらの証拠によっては、残余財産分配請求権を放棄した竹本を除くヴィクトリアンボックスの構成員である原告と被告との間で、利益の算出方法、現金による分配か否かを含めた分配の具体的態様についてまで、最終的な合意が成立したものとは認め難く、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
もっとも、原告主張の合意が成立していなくとも、民法上の組合ないしはこれに準ずるものであるヴィクトリアンボックスの残余財産については、構成員である原被告及び竹本の出資額に応じてこれを分配すべきであるところ、右のとおり、竹本が現金一三〇万円の交付以外の残余財産分配請求権を放棄しているのであるから、その余の残余財産について、原被告間で、それぞれの出資額に応じて二分の一ずつ取得すべきものと解される。
これに対し、被告は、原告がヴィクトリアンボックスの清算について被告の申し出に従う旨を述べ、被告が適正な清算額を算出して原告に支払ったから、清算手続は完了したと主張するところ、乙二及び被告本人によれば、前記の原被告間の交渉過程において、原告が被告に対して「これ(ヴィクトリアンボックスの清算問題)は、あなたがこうしますといえば、済む話だ」と述べたことは認められるものの、原告の右言辞は、その内容からして、相手方の具体的な提案を促す意見の表明にすぎず、およそどのような提案であっても被告の申し出た清算案に従い、その余の残余財産分配請求権を放棄するとの意思表示ではないことが明らかである。
五 そこで、分配の対象となるべき残余財産の範囲及びその額について検討するに、甲一によれば、原告主張の「資産合計」には在庫品の仕入価格が含まれるものと認められ、これについて、被告は、在庫品を考慮した分配が不公平である旨を主張するところ、組合等が解散した後における残余財産の分配は、現金をもってこれをなすのが構成員の便宜にかなうことは疑いないけれども、在庫品等の動産類については、特段の換価手続が法定されておらず、これを金銭評価して現金の分配をもって清算する旨の合意もない以上、別途、共有物(組合財産が組合員の共有に属することについては民法六六八条。)分割の方法によって清算すべきものといわざるを得ず、その限りにおいて、被告の右主張は首肯することができる。
しかるところ、甲一、乙一〇の1、2、一一の1、2、一二の1ないし3、一三、被告本人及び弁論の全趣旨によれば、ヴィクトリアンボックスが解散した当時における在庫品を除くその余のヴィクトリアンボックスの積極財産は、預金三八〇万六六三二円、現金一万四二四六円、受取手形額面合計六六六万五三五八円、売掛金五三二万〇〇二九円、立替金八万七七八四円の合計一五八九万四〇四九円、消極財産は、買掛金一〇三万円、売掛金一三万六六八七円の合計一一六万六六八七円であり、このうち、受取手形は各支払期日に取立手数料合計九一〇〇円の出費のもと全て回収されたものと認められ、また、売掛金その他の債権も現在までに被告において回収済みであるが、他方、買掛金その他の債務も現在までに被告において支払済みであると推認される。
なお、解散当時存した在庫品がその後売却されて現金化したとの具体的な主張立証はない。
そうすると、右時点の積極財産一五八九万四〇四九円から手形取立手数料九一〇〇円及び消極財産一一六万六六八七円を控除した一四七一万八二六二円が、現金交付の方法による分配の対象となるべき残余財産の額と算出される。
六 これに対し、被告は、ヴィクトリアンボックスの平成六年六月三〇日まで、または同年一二月二五日までの売上高と右各終期における在庫品と現金との合計からなる収入と、右各期間を通した仕入費用その他の経費からなる支出との差がヴィクトリアンボックスの残余財産であるかのように主張するが、前記認定のヴィクトリアンボックスの解散日との齟齬はともかくとして、被告の右主張は、特定の時点を基準として計算される在庫品及び現金と、期間を通じて計算される売上高とを同列に扱おうとするもので、およそ採用することはできない。
念のため、被告主張の経費なるものについて、残余財産の算定にあたって考慮し、または、原告に対する残余財産の分配にあたって相殺処理すべきものがあるかどうか検討するに、被告主張の一般経費なるものは、乙二七及び被告本人によれば、要するに、被告がヴィクトリアンボックスの預金口座から引き出した現金の中から支出した事務費その他の雑費をいうものと認められるのであり、このような現金の出入りを経たうえで、解散日における預金及び現金の額が前記認定のとおりとなっているにもかかわらず、右の預金及び現金を含む残余財産から改めて右の一般経費なるものを差し引くべき根拠はない。
また、被告主張の原告経費なるものも、原告が自認する残余財産分配請求権(清算金請求権)の一部弁済をいうもの以上の意味があるとは解し得ない。なお、被告は、原告がヴィクトリアンボックスから宝飾品を受領したと主張するが、仮に原告が被告主張の価額の宝飾品を受領したとしても、これがヴィクトリアンボックスの残余財産の分配としてなされたものでないことは被告の主張自体から明らかであるし、右の受領によって原告が被告ないしヴィクトリアンボックスに対して債務を負ったものとも解することができず、宝飾品受領の事実は残余財産の分配にあたって何ら考慮すべきものではない。
さらに、被告主張の被告経費のうち、活動費については、報酬であるのか費用であるのか争いがあるものの、いずれにせよ、被告本人によれば、ヴィクトリアンボックスの収益の中から受領済みと認められるのであり、これを残余財産から差し引くべき根拠がない。その他被告主張の交通費、電話代、交際費の中に、ヴィクトリアンボックスの活動に関するものが含まれているとしても、それをヴィクトリアンボックスにおいて負担する旨が構成員間で合意された形跡はなく、むしろ、右のとおり、被告は、活動費なり報酬なりとしてヴィクトリアンボックスの収益から給付を受けていたのであるから、原則として右給付によってヴィクトリアンボックスの活動に伴う諸費用を賄うべきであり、また、右給付を超える費用を支出したと認めるに足りる証拠はない。また、被告の友人に対する販売手数料、出張日当、残業代、解散後の残務整理事務費は、これを被告に支弁する旨の構成員間の合意のない限り、当然には支給を受けることのできない性質のものであるのに、右合意がなされた形跡はない。加えて、乙一三、被告本人によれば、被告がヴィクトリアンボックスの受取手形について手形割引料を負担したことはないと認められ、手形割引料の控除をいう被告の主張は、単に、平成六年一二月三一日に手形を割り引いた場合には被告主張の額の割引料を差し引かれる旨をいうものにすぎないと解されるところ、前記認定のとおり、被告は現実には取立手数料のみを支出して額面額による手形金を受領しているのであり、右手形金をヴィクトリアンボックスの残余財産に組み入れることに何ら支障はない。
七 よって、前記認定の現金交付の方法による分配の対象となるべきヴィクトリアンボックスの残余財産一四七一万八二六二円から、竹本に交付された一三〇万円を控除した一三四一万八二六二円を原被告の出資額で案分した原告の取得額は六七〇万九一三一円と算出される。
しかるところ、原告は、被告から、出資金二〇〇万円の返還と清算に関連して二四〇万九五七〇円の支払を既に受けているのであるから、なお被告がヴィクトリアンボックスの現金交付の方法による残余財産分配として原告に支払うべきは二二九万九五六一円である。
そして、弁論の全趣旨によれば、原告が平成七年一二月三〇日到達の通知書によって被告に対し平成八年一月一六日までに清算金を支払うよう催告したことが認められるから、右期日に前記金員の弁済期が到来したものと解される。
ただし、原告は、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるが、民法上の組合またはこれに準ずるべきものであるヴィクトリアンボックスの残余財産分配請求権が商事債権にあたると解することはできない。
八 以上の次第で、原告の請求は、被告に対し、残余財産分配請求権に基づき二二九万九五六一円及びこれに対する平成八年一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官石橋俊一)